三教指帰

「阿国 大滝嶽 (たいりゅうのたけ) に躋り (のぼり) 攀ぢ (よじ) 土州室戸崎に勤念 (ごんねん) す 谷響 (たにひびき) を惜しまず 明星来影す」  『三教指帰』 (さんごうしいき)  ※ 一部、管理人がふりがなを入れました

 四国遍路の寺・下 金剛頂寺─西寺 P174

「谷響(たにひびき)を惜しまず」という文章で、阿波の大滝嶽(たいりゅうのたけ)の修行の場所がわかります。阿波の大滝嶽には洞窟と捨身岩という行道ができる岩があります。ずいぶん危ないけれども、岩のほうは行道ができます。

もう一つは、捨身岩から補陀落山(ふだらくさん)の麓(ふもと)を回って三十町ほど北に下がりますと、遍路宿のある黒河(くろごう)というところの近くに龍の窟(いわや)があったことが古い地図に出ています。「谷響を惜しまず」と書いているので、弘法大師の修行の場所であることは明らかです。
 (略)
その中(※)に洞窟は三段に分かれていて、その中に滝が落ちていたと書いてあります。滝の音ですべての物音が消えてしまう中で、心を澄ませて求聞持法(ぐもんじほう)をしたわけです。滝の落ちる音が洞窟に響いている中で求聞持法をやったという光景がわかります。  (※)阿波国太龍寺縁起

「明星来影す」については、求聞持法をやっておりますと、特別に明星が輝くといわれています。虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)の使者を明星天子(みょうじょうてんし)といいます。つまり、脇侍(きょうじ)というか童子が求聞持法をしている者の窓際に輝きを増してくれるのが明星です。いちばん最後の日には、それが口の中に入ってきたり、机に落ちてきたりします。

そういう体験をしなければ、虚空蔵菩薩はその人の求聞持法を受け入れてくれないので、目的とする「一切の文義を諳記することを得」という能力が付きません。夢に星の落ちるのを見てもいいし、流星を見てもいいといわれているようです。

したがって、「谷響を惜しまず」というほうは、大滝嶽の龍の窟(いわや)です。「明星来影す」のほうは室戸岬の洞窟です。この洞窟は東南に向いていて、ちょうど明星を見るのにはいい位置ですから、そこの光景を表しています。